※下記は経営者通信12号(2011年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―まず日本経済の今後の展望を聞かせてください。
大前:はっきりしているのは、「もう日本経済は成長しない」ということ。日本経済の衰退が始まって、すでに20年が経ちます。この間、国民の金融資産も家計所得も減り続けている。こんな状態は他の先進国でもありません。たとえば、アメリカやイギリスは家計所得が20年間で250%に増えています。一方、日本は88%に減少している。つまり、日本だけが特殊な状況に陥っているんです。しかし、このような「悲劇的な状況の真っただ中にいる」という認識を経営者が持っているでしょうか?もう成長はない。景気も良くならない。この大前提から出発して、自社の生き残り戦略を描くしかありません。もし「いつか景気が回復する」なんて期待していたら、経営者失格ですよ。
―もう日本経済は成長しないとすれば、中小企業はどのような戦略で生き残ればいいのでしょうか?
大前:生き残りの戦略は「国内」と「海外」に分けられます。まず国内だけで戦う場合、高度経済成長期の発想から脱却しなければいけません。高度経済成長期の発想の最たるものは、多額の投資をして自社ですべての設備や機能を揃えることです。たとえば、大田区には機械加工の中小製造業が多い。そして、各企業が同じような工作機械を購入し、保有している。でも、それがムダな投資なんです。どの企業も、機械を24時間365日ずっと使っているわけじゃない。だから、大田区全体で最新鋭の機械を“共有”すればいい。機械の使用状況やスケジュールはインターネットを通じて共有し、空いている時間に作業を入れる。つまり、数十社の中小企業が集まって、大企業並みのバーチャル機械センターをつくるわけです。そうすれば、各企業が設備投資する必要もなくなります。また、人員も他社の人を使わせてもらえばいい。その結果、大幅にコストが削減でき、国際競争力も高まります。
―そのような手法は、製造業以外の企業にも有効なのでしょうか。
大前:ええ。製造業だけでなく、小売業やクリーニングなどのサービス業でも応用できます。いままでライバルだと考えていた企業と協力し、設備やノウハウ、人材を共有する。中小企業の経営者は、こういう発想の転換をすべきです。もし具体的な方法がわからなければ、わかる人に任せればいい。たとえば、“共有”という概念は、若者の方が深く理解しています。スケジューリングだって、スマートフォンで簡単にこなす。だから、自分の息子や新卒社員にやってもらえばいいのです。
―なるほど。国内の生き残り戦略は「共有によってムダを省く」ということですね。では、海外での生き残り戦略を教えてください。
大前:まず前提として、先進国は少子高齢化が進行し、長期的衰退へと向かいます。ところが高齢化が進んでいるがゆえに、年金、貯金、保険などの運用資金が余っている。だから、先進国の巨額のお金がリターンの大きい投資先を探して、世界中を駆け巡っているんです。この“ホームレスマネー“が約4000兆円もあり、その多くが新興国に投資されています。ですから、これから多額のホームレスマネーが流れる新興国を先読みし、いち早く進出すべきです。 でも、これから新興国も大変ですよ。インフレ、金融引き締め、バブル崩壊が起こる。つまり、日本と同じ道をたどるわけです。ただし、新興国が昔の日本と大きく違う点は、国民の平均年齢が若いこと。若者の多い国は、バブルが崩壊しても甦る力を持っています。特に国民の平均年齢が25歳~30歳で、人口が5000万人以上の国は潜在能力が高い。そういった国を選び、進出すべきでしょう。
―中国は有力な進出先ですか?
大前:いえ、もう遅いですね。インドも欧米企業が大挙して進出しているので、遅いでしょう。ロシアは日本企業が少ないので、悪くない。もしヨーロッパ向けの事業をやろうと考えているなら、トルコ、あるいはルーマニアなどがいいでしょう。人件費の低いトルコやルーマニアを足場にして、ヨーロッパを攻めるわけです。こういったことを経営者が理解していないと、どの国に進出すればいいか分からない。だから、中小企業の経営者は土曜日にゴルフをするのはやめて、グーグルアースでも見るべきですよ。自宅から“サイバー出張”して、世界各国を研究すればいいんです。