経営に没頭せよ

※下記は経営者通信6号(2010年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 

―宗次さんは、10年後のビジョンなどは考えていなかったのですか。

宗次:まったく考えていませんでしたね。そもそも将来のことを考える必要はないと思っていました。私は毎日、お店でお客さまの顔を見ていましたし、現場社員と意思の疎通もできていました。お客さまと社員のことが理解できていれば、それで十分だと思っていたんです。食堂業だからこそ出来たのかもしれませんが、実際には日々の積み重ねだけで、毎年業績は順調に伸びていました。

―多くの経営者は同業他社のことを気にすると思います。宗次さんは競合企業のことを意識していなかったのですか。

宗次:まったく意識していませんでしたね。お客さまだけを見ていれば十分です。同業他社を気にしていると、本質を見誤ります。ですから、当社は同業他社などの値下げ競争には一切参加しませんでした。また、他のカレーチェーンのヒット商品を模倣することもありませんでしたね。ただ、当社のFCオーナーからは、商品値下げの要求がたくさんありました。「売上が落ちているので、値下げキャンペーンをしたい」とか、「商品のセット割引を設けてほしい」とか。でも、私は信念があったので、一切値下げを許しませんでした。もし値下げをすれば、まず自社の利益が削られます。すると取引先に無理を言い、従業員に過重労働を強いることにつながる。こんな手法は経営者として本当に恥ずかしい。取引先も従業員も不幸になります。結果としてお客さまのためにもなりません。だから、私は値下げをしようとは一度も考えませんでした。そもそも食堂業には薄利多売商法はそぐわないのです。むしろ「売上が落ちたのなら、掃除をしなさい」と口酸っぱく言っていました。「値下げをしなくても、掃除で売上は上がる」。FCオーナーにそう説得していました。要は経営姿勢の問題なのです。

―掃除をすれば、本当に売上は上がるものですか。

宗次:上がります。ただし、自社の店舗だけを掃除しても効果は限られています。郊外の店なら周囲200メートル、市街地の店なら周囲20~30メートル。これが「CoCo壱番屋」の掃除の範囲です。店舗の近隣を毎日掃除すれば、次第に地域の人々から信頼されるようになります。「掃除を一生懸命やるような店なら安心だ。そんな店を利用したい。応援したい。」と思ってもらえるんです。 もちろん、掃除がきっかけで店舗に足を運んでくださる方はごく一部ですよ。お客さまの中の1%もいないかもしれません。でも、そういったお客さま、「CoCo壱番屋」のファンが大事なんです。新たなファンが1ヵ月に1人増えれば、1年で12人に増えます。その12人からクチコミでファンの輪が広がり、いつか売上の数%を支えてくれるようになるんです。ただ、掃除の難しい点は「継続」です。掃除は継続しなければ意味がありません。でも、みんな続かないんですね。掃除をやり始める人は多いのですが、即効性がないからみんな途中でやめてしまう。逆説的ですが、だからこそ価値があるんです。誰も続かないからこそ、地域の人々から信頼されるわけです。

―宗次さんは2002年に53歳の若さで会長職から退き、引退しました。その後も御社の業績は順調に伸びています。なぜ御社は事業承継がうまくいったのですか。

宗次:素晴らしい後継者に恵まれたからです。現在、代表を務めている浜島俊哉は、私よりも優秀な経営者です。これは心からそう思っています。だからこそ、壱番屋を託しても大丈夫だと思ったわけです。また、私が「経営者」というポジションに執着しなかったことも良かったのでしょうね。創業経営者の中には自分が生み育てた個人の会社と錯覚し、「経営者」というポジションに執着して、なかなか後進に道を譲らない人が多い。でも、永遠に自分が経営できるわけじゃありません。どこかで潔く身を引かなければ、後進の経営者が育ちません。私の場合、ずっと経営に身をささげてきましたが、「経営者」というポジションに執着はありませんでした。だから、私は役員としても会社に残らず、スッパリ引退できたわけです。

―最後に、不況に苦しむ経営者へアドバイスをお願いします。

宗次:不況だからと言って、特別なことをする必要はありません。たしかに年商1000億円以上の会社ならば、不況の影響は免れないでしょう。しかし数億円、数十億円規模の会社ならば、不況の影響は少ない。経営者が先頭に立って無我夢中で働けば、自分の会社くらい守れるはずです。不眠不休を厭わず、寝食を忘れて必死に頑張る。そうやって経営者が率先垂範すれば、売上は落ちないと思います。 売上回復のヒントなんて、いくらでも現場に転がっています。経営者はよそ見をせず、お客さま第一主義、現場主義を貫く。業績不振の理由を景気のせいにしてはいけません。業種業態の違いはあるかもしれませんが、経営の基本は同じだと思います。
  
プロフィール宗次德二(むねつぐ とくじ)

1948年、石川県生まれ。高校卒業後、八洲開発株式会社を経て、1970年に大和ハウス工業株式会社に入社。1973年に独立。不動産仲介業を経て、1974年に喫茶店「バッカス」を開業。1978年にカレーハウスCoCo壱番屋を創業する。1982年に株式会社壱番屋を設立し、代表取締役社長に就任。1998年に同社代表取締役会長に、2002年に創業者特別顧問に就任。2003年にNPO法人イエロー・エンジェルを設立し、理事長に就任。2007年にクラシック音楽専用の「宗次ホール」を名古屋市内にオープンした。著書に『日本一の変人経営者』(ダイヤモンド社)などがある。

 

会社概要

◆設立/1982年7月1日
◆資本金/15億327万円
◆売上高/684億2,100万円(2009年5月期)
◆店舗数/1,218店 (新業態を含む 2010年4月末現在) 国内1,182店、海外36店
◆従業員数/775名(2009年5月末)

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