※下記は経営者通信2号(2009年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
―堀さんはハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)でMBAを取得後、1992年にビジネススクール事業を行うグロービスを設立。2006年にはグロービス経営大学院を開学し、現在は学長も務めています。堀さんが考える「経営者に必要な能力」とは何ですか?
堀:大きく分けて3つあります。1つ目が「知識・フレームワーク」。これはマーケティング、ファイナンス、アカウンティング、オペレーション管理、人的資源管理など、分野ごとにパッケージ化された基本法則のこと。囲碁の世界で言う"※定石"にあたります。囲碁には先人の過去の戦いの中で蓄積された"定石"があり、それらを知らなければ勝負に勝つことはできません。それは経営においても同様なんです。
2つ目が「考える力」。これは経営の本質を見極め、最善の解を導き出す力のこと。経営の本質を見極めるためには、複雑かつ不確実な"経営という化け物"を多面的に捉え、統合的に理解しなければいけません。そのために先ほど申し上げた様々な知識・フレームワークを総動員します。そして、正確な状況判断、問題発見をした上で、最適な意思決定を行うわけです。
3つ目が「伝える力」。これは自分の考えや自社のビジョンを人のハートに訴えかけられる力のこと。経営者は複雑かつ多様な人々のいる組織を、ひとつのベクトルに統一しなければいけません。そのためには自らの考えを構造化・簡素化し、効果的に伝える必要があるわけです。
―どうすれば、それら3つの能力を伸ばせるのでしょうか?
堀:繰り返し反復練習することです。何回も繰り返し練習すれば、誰でも必ずある一定レベルにまで能力を伸ばすことができます。本来、人間は生来の能力差なんてほとんどありません。「能力がない」のは「努力をしていない」とほぼ同義だと思います。そして、ここで大事になるのは時間配分です。どの能力を伸ばすために時間を使うのか。時間は、みな平等に与えられています。その限られた時間をいかに有効活用できるか。そこがポイントになります。
ちなみに私はゴルフをやりません。ゴルフに時間を割くよりも、その代わり読書に多くの時間を割いています。これは私流の時間配分です。読書は知識の習得だけではなく、自分の人生観、歴史観を深める助けにもなりますからね。
―そもそもMBAこそ、「経営者に必要な能力」を効率的に身に付けられるプログラムですよね。
堀:そうですね。実際、グロービス経営大学院ではケース・メソッドという学習法を使って、先程の3つの能力を効率的に伸ばしています。ケース・メソッドとは、自分たちが経営者であると想定して、実際の企業事例をもとに経営判断の疑似体験をする学習法のことです。具体的には、150~200のケースを取り上げて、その経営環境を細かく分析し、とるべき戦略、意思決定についてディスカッションします。この過程で「知識・フレームワーク」を活用し、「考える力」を養うわけです。また自らの考えを積極的に発言することで、「伝える力」も磨かれていきます。このケース・メソッドを150回以上も繰り返し行うことで、3つの能力を確実に伸ばすことができます。
ただし、自己の能力向上が経営者の最終目標であってはいけません。最終的に一番大事なのは、経営者が成し遂げたい"志"です。ここがしっかりしていないと、本末転倒になります。そのためグロービス経営大学院では能力向上だけではなく、志の育成にも力を入れています。