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株式会社上島熱処理工業所 代表取締役社長 上島 秀美

「熱処理の上島」として
高い技術者・技能者集団であり続ける

株式会社上島熱処理工業所 代表取締役社長 上島秀美

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上島熱処理工業所の主な仕事は、ハイスピードスチールと呼ばれる高速度工具鋼の熱処理加工。高速度工具鋼とは、高速で金属材料を切削する工具に使われる鋼のこと。そして熱処理とは、金属材料を加熱しその後冷却することで、金属の組織、性質を変性させる工程だ。同社は、創業以来、熱処理を専業とし「熱処理の上島」として確固たる地位を築いている。同社の何よりの強みは高い技術力。鋼材の専門知識を持った「技術者」と、実際に熱処理加工を行う「技能者」達が高い技術を支えている。特に、技術の向上のため技能者の育成に注力しており、50名程度の社員数にもかかわらず、卓越した技能者だけが認定される「現代の名工」を4人も擁している熱処理のプロ集団だ。

伝統の継承と、未来への挑戦を可能にする革新企業の本質
  • 社風
    会社全体の技術を高める、切磋琢磨する社風
    上島社長が「実力があればいつまでも仕事ができる」と言う通り、同社では60代70代の社員が現役の技能者として今なお第一線で大活躍している。最高齢はなんと80代だ。また、40代で「現代の名工」の認定を受ける社員もいるように若手の成長が著しい。 若手とベテランが活躍できるのは、同社に現状に甘えず技能を突き詰めようとする社風があるからだ。「現代の名工」や東京マイスターに認定されるような高い技能を持つ先人が身近にいる環境で、若手社員が先輩の背中を追いかけ、研鑽を積む。一方で、ベテランも若手からの刺激を受け、突き上げてくる後輩に負けないよう技を磨く。そうした日常の積み重ねが、切磋琢磨する風土を社内に定着させた。 会社としても「もっと技術を高めたい」という社員の意欲に応えるべく、より多くの学びを得られる環境を整備。現在では社内でのOJTに加えて、行政や業界団体と連携し構築した教育プログラムを、多くの社員が活用している。今日も同社では、幅広い年齢の社員が常に高みを目指し、技能の飽くなき探求を続けている。
  • 独自性
    営業活動一切なし!「熱処理は上島で」と言われる優れた技術
    関東を中心に、日本全国の企業から熱処理の依頼を受ける同社。しかし、営業活動は一切行っていないというから驚きだ。全ての仕事は口コミと紹介がきっかけで依頼されたものであり、1日に200件以上の依頼品が来るという。同社にそれほどまでに仕事が集まる要因は、「炉前こそが花形!」という考えのもと磨き上げてきた高度な熱処理の技術だ。その高い技術の例の一つとして、曲がりの矯正が挙げられる。鋼を熱処理した場合、平均的には1mの鋼で1mm程度の曲がりが発生するのが一般的だ。それを同社の熱処理技能者は0.3mm以下に矯正することができる。神業と言って差し支えない。 要望に応えるべく技術を高めてきた同社に対する企業からの信頼は厚く、「熱処理は上島で」という指定をしている企業も多い。中には、熱処理後の部品の出来栄えを見て「これは上島での処理だ!」と分かる人もいるほどだという。積み上げてきた専門性が、同社を熱処理業界の雄へと導いたのだ。
  • 展望
    卓越した技術者・技能者を擁し、新たな業界へ進出する
    同社が今目指すのは、新業界への進出。狙うは、国産メーカーの成長が待たれる航空宇宙産業や、高齢化社会の進展に伴ってより社会に必要とされるであろう医療業界だ。 航空宇宙産業は高い安全性が求められる業界。当然、部品には高い精度が必要とされるため、並大抵の企業では発注は得られない。しかし、参入障壁の高い業界であるにもかかわらず、同社はこれまで培ってきた高度な熱処理技術が認められ、航空宇宙業界の企業と信頼関係を構築している。さらに、航空宇宙部品の加工に対応した真空炉を導入し、新業界へ進出する準備を整えている。 また、高い精密性が求められる医療業界では医工連携の領域から進出を開始。大学や企業の研究開発の一環として、部品、製品の熱処理を請け負っており、既に売上の1割を研究開発関係が占めている。 新業界に進出する際にも、基盤となるのはこれまで培ってきた他社の追随を許さない高い技術。上島なら安心して任せられるという実績をもとに、新業界への挑戦を推し進めていく考えだ。
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熱処理を行うソルトバス
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加工した部品の硬さ試験を行う
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航空宇宙加工用の真空炉を導入

営業ゼロを実現できる秘訣に迫る

-熱処理において、上島熱処理工業所が優れていることはなんですか
QCD(Q:quality=品質、C:cost=コスト、D:delivery=納期)という言葉がありますが、当社は決して納品が早いわけではなく、安いわけでもありません。もちろん、できる限り納期を短くすることを心掛けていますが、少し高くとも、時間がかかっても、お客様が100%納得する品質で納品することを最優先に考えています。「品質が第一」ということです。 品質を向上させるため、技能者には技能士の資格取得や「現代の名工」の認定を目標に、常に技術を高めてもらっています。一つの目安として、20代には熱処理技能の特級技能士を目指してもらい、40代には「東京マイスター」や「現代の名工」を目標にしています。社員の技能を高めることで、常に会社全体としての品質の高さを向上させているのです。
―高い品質と技術を高めるために取り組んでいること
技術者と技能者の育成です。技術というのは特殊鋼メーカーの技術資料に基づいています。そうした最新の情報を把握し、特性を理解して熱処理の指示を出す人が必要なのです。 もう一つは技能者という熱処理を忠実に行える技能があるスタッフを育成することです。いくら最新のデータに基づいた指示書を作っても、忠実に作業を行える人間がいなくては、正確な熱処理はできません。例えば、1200度で10分という指示があったとして、鋼材が1200度になるタイミングを秒単位で把握することや、1本入れた時と10本入れた時の温度の下がり方の違いといった知識は現場でしか得られないものです。そうした詳細な技能・知恵が途切れないよう、親方子方制度を導入し熟練の技術を1対1で伝承することを行っています。
―これからの会社を支える若手へのメッセージをお願いします
全員に何らかのプロフェッショナルになってほしいですね。今は、20代の社員よりも技術のある50代60代の社員の方が生き生きしていますから。 技能を蓄積していくことで活躍の幅が広がる世界なので経験が長いほど活躍する人も多いですが、現代の名工に認定された文珠川のように、40代でも会社の中心人物として活躍できるので、20代30代の社員には技能を習得することに力を注いでもらいたいです。 まずは、マニュアルで測れるレベルの技術を習得することを目指してもらいますが、目指してほしいのはさらにその上。「現代の名工」のレベルには、口やマニュアルでは説明できないような領域があるので、将来的には一人ひとりの社員が「あいつはあの分野でのエキスパートだ」という状態にしたいですね。

KEYPERSON

株式会社上島熱処理工業所 代表取締役社長 上島 秀美

「熱処理の上島」という看板を背負い、守る

株式会社上島熱処理工業所 製造部 製造係長 文珠川拓実

技能者の育成に力を入れている上島熱処理工業所。技能者に求めるスキルを一覧化して管理したり、親方子方制度で1対1の指導を行うなどの取り組みで、社員の技能習得を後押ししている。「現代の名工」や、東京マイスター、熱処理技能士など、資格、認定を取得している社員が多数いるという事実が、同社の人材育成の力を示している。 今回、社員代表として話を伺ったのは、40代にして「現代の名工」に選出されている文珠川さん。技術自慢が揃う上島熱処理でも、「現代の名工」に選出されているのは文珠川さんを含めて4名。40代での選出は異例だ。今回の取材では、社内でもずば抜けたスピードで熱処理技能を向上させた文珠川さんに、技能に懸ける想い、品質に懸ける想いを伺った。

伝統の継承と挑戦の未来を担う社員の思い
  • 入社理由
    間近で見た、熱処理の迫力に圧倒されて
    商業高校を卒業後、レストランで調理師として働いていた文珠川さん。手に職を付けることを重視した選択だったが、行き詰まりを感じていたという。そんな時に新聞広告で見たのが、上島熱処理工業所の求人。「やる気次第」の告知文に興味を持ち、軽い気持ちで現場を見に行った文珠川さんだったが、そこで人生を大きく動かす出会いをすることになる。 会社説明後、作業場を見学した文珠川さん。作業場で感じたのは、熱処理の現場の迫力。塩浴炉には、500度以上の高温で液状になった塩が満たされ、技能者が100kgを超える金属部品を、クレーンで運び入れる。焼戻しと呼ばれる工程だ。その迫力、そして技能者の職人技を目の当たりにし、熱処理の世界に心惹かれた文珠川さんは、転職を決意。技能者として、熱処理の世界に飛び込んだのだ。 熱処理の恰好良さに憧れ入社して24年。先輩から技能を学び取り、40代で現代の名工に認定されるほど、一途に熱処理の道を突き進んできた文珠川さん。さらなる高みを目指し、今も技術を磨き続けている。
  • やりがい
    要望通りの焼き戻しをし、上島の看板を背負い守ること
    「熱処理は上島へ」というお客様からの期待に応える仕事をし、上島熱処理工業所の看板を守ることが、文珠川さんのやりがいだ。 日々、全国各地から熱処理を必要とする部品が送られてくる上島熱処理工業所。届く部品は大きなものから小さなものまで様々で、言うまでもなく、一つひとつの仕事で求められる仕様は異なり、中には初めて熱処理するものもある。「新しい、大きいものが来た時も、ばちっと決まれば良い気持ちですね」と文珠川さんが語る通り、熱処理技能者の腕が求められるのは、どんなものでも、お客様が求める硬さに仕上げることだ。初めてのものを要望通りに仕上げるためには、経験と勘と集中で細かい調整をする必要があり、難易度の高い仕事になる。しかし、難しいからこそ上島に仕事が来ているのであり、それに応えることが会社の看板を守ることだと文珠川さんは考える。技能者としてのプライドをかけ、日々鋼と炉に向き合っているのだ。
  • 夢
    全員がスペシャリストと言われる会社へ
    現在は焼戻しの責任者として上島熱処理全体の焼戻しの品質を管理する文珠川さん。40代で唯一の「現代の名工」として、会社全体の技能に責任を持ち、個々の技能をレベルアップさせることを目指している。 現在でも「熱処理の上島」として業界では高い知名度を誇っている同社。これからもその名を守り、さらに会社を発展させていくために必要なのが、伸びしろのある20代30代の技能者の育成。「どんどん若い子に成長していってもらいたいです」という言葉の通り、ベテラン技能者の高い熱処理技能を若手に伝承している文珠川さん。技能者の育成にあたっては、文珠川さん自身が「見て学べ」という指導方針で苦労した経験から、「速さを求めないように、正確さを求めるように」という方針で、丁寧な指導を行う。近い将来「上島でお願いします」という状態から「上島の○○さんでお願いします」と技能者一人ひとりが名指しで指名されるようなスペシャリスト集団へと会社を進化させるべく、今日も後進の育成に全力を注ぐ。
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技能者を育てる親方子方制度
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品物の微調整は職人の手作業でしかできない
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熟練作業員から直接学べる環境

現代の名工に聞く、技術の神髄

-どのように技術を磨いたのですか
現代の名工に選んでいただくことができたのは、たまたまです(笑)。長年やってきたので「ご苦労さん」的な部分もあると思っています。もともと、そこまで技能を伸ばしたいと思っていなかったんですが、仕事をするにつれ、「上の人にも負けたくない」と思うようになりました。入社してすぐついた親方が厳しくて、「あれやれ、これやれ」と色々言われる人だったんです。自分としては負けず嫌いなので、色々と指示されるのが好きじゃなくて、「言われる前にやってしまおう」とやってたら、気付いたら親方の技能に近づいていたんです。会社内にたくさん優れた人がいましたし、諸先輩方に「負けるもんか」という気持ちで切磋琢磨したことが技能の習得に繋がったと思います。
―熱処理の作業をする上で、勝負どころはなんですか
熱処理自体で苦労するのは、大物の熱処理ですね。大きいものは、熱するのにも時間がかかりますが、中々冷めないんです。通常の勤務時間が8時から17時なんですが、焼入れしたものを焼戻しできるまで冷やすのに21時くらいまでかかるんです。適温に冷めた時にすぐ処理をしないと焼割れの可能性もあるので、17時に一度帰って、夜中の22時から23時に出てきて、焼戻しして、早朝に帰るというような生活が何日か続いたこともありました。その時は体力的に大変だと思うこともあります。まさに勝負どころですね。ですが、品物ができあがって、出荷されていった時の達成感があるからこそ、良いものを作ろうという想いに火が付きます。
―高い品質を作るために、心掛けていることはありますか
熱処理の仕事で大切なのはタイミングです。例えば、細長いものを焼くとき、ベテランの技能者なら出す際も丁寧にすーっと出して、すっと持っていくんです。ですが、タイミングが遅れ、焦って出したり、ゆすったりするのが甘いと、出し入れ1つで曲がりが出てしまうんです。そうなると硬さが不十分だったり矯正が必要になったりするので、作業全体の効率が下がってしまいます。それくらい繊細な作業なのです。 それと、熱く、危険な作業なので、絶対に目を離さないこと。これだけは口を酸っぱくして下の者にも伝えています。 お客様からお預かりしている品物をぶつけないよう、品物を扱ってる時は絶対に目を離してはいけないんです。タイミングと目を離さないこと、基本的なことですが疎かにしないようにしています。
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■監修企業からのコメント

株式会社上島熱処理工業所 代表取締役社長 上島 秀美

噴出し左
熱処理に特化して50年以上の歴史をもつ上島熱処理様。鋼材のプロフェッショナルである技術者と、熱処理のプロフェッショナルである技能者の双方が高いレベルで専門性を持っているからこそ、正確な熱処理が可能になっていることが分かりました。取材後、実際に工場を拝見させていただきました。幅広い年齢層の技能者の方々が、炉に向き合い、真剣に一つひとつ処理を進めている姿が非常に印象に残っています。日本のものづくりを支える技術がここにありました。
■掲載企業コメント

株式会社上島熱処理工業所 代表取締役社長 上島 秀美

噴出し右
取材を終えた感想
ものづくりを支えるのは、専門知識をもった技術者と、実際に作業を行う技能者です。これからも培った技術と磨き上げてきた技能を次の世代へと伝承し、航空宇宙業界を含めた新たな業界への進出など、より多くのお客様から必要とされる企業を目指します。
株式会社上島熱処理工業所
代表取締役社長 上島 秀美
1956年 切削工具、塑性加工工具及び金型等、
     高級特殊鋼製品のソルトバスによる熱処理加工を目的として、
     川崎市塚越に有限会社組織をもって創業する。
1958年 組織を株式会社とし、昭和34年 6月現在地に移転する。
1967年 東京都知事より経営合理化模範工場として表彰される。
1969年 摩擦圧接加工業務を開始する。
1971年 真空熱処理炉を導入し、従来のソルトバスとあわせて、
     真空による熱処理加工業務を開始する。
1972年 工業標準化法第25条による JIS B 6913 の JISマーク
     表示許可工場となる。
1987年 創業者の上島基之が東京都知事より中小企業振興の業績により
     東京都功労者として表彰される。
1997年 工場長足助清雄が卓越した技能者として労働大臣表彰を受ける。
1999年 ISO 9001 の認証を熱処理メーカーとして日本で最初に取得する。
2009年 JIS Q 9100の認証取得。
2011年 Nadcap認証取得。
創業年(設立年) 1956年
事業内容 金属熱処理加工
金属表面改質処理
摩擦圧接加工
所在地 東京都大田区仲池上2-23-13
資本金 1,000万円
従業員数 46名
企業URL http://www.kamijima.co.jp/index.htm

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